
根本 利通(著)
昭和堂
東アフリカのスワヒリ世界には、まぶしさと潮の香りの思い出が付きまとう。
そんな思い出をこの本はさらに豊かにしてくれる。アフリカの発展は、海岸沿いの町々にも急速な変化をもたらしているが、かつてダウ船で貿易風に乗り、中東からモザンビークまでの間を行き来した船乗りと商人たちの足跡が今でも方々に残っている。かつて栄えた王国や貿易の町で繰り広げられた人々のくらしがあったのだ。著者は、そうした町や遺跡を丹念に歩き回り、今そこに住む人たちと交流し、話を聞いて記録をしたためてきた。いずれ一冊の本にしようと考えていた著者が急逝し、残された人たちが遺稿集として取りまとめたのが本書だ。
根本さんはダルエスサラーム大学大学院への入学を皮切りに、そのあとずっとタンザニアで30年間暮らされた市井のアフリカ研究者。長らく、ダルエスサラームでオルタナティブツアーを提供する旅行会社を経営されていた。日本とアフリカを繋ぐ、アフリカを学んでもらうツアーを運営しつつ、奨学金事業なども運営された。根岸さんは、自分が見出したスワヒリ世界の魅力を、多くの日本人に分かってもらいたかったんだろうなと思う。スワヒリの世界を内側から見た視点は、その他の研究者と一線を画す
ケニアのタナ川河口にできる、インド洋に突き出した長い砂州をバイクで走り回っていたころ、誰もいない海岸沿いに、半分砂に埋もれた遺跡を見つけたことがある。今はだれもいない海岸は、かつては商人や船乗りや王様など、様々な人たちが行きかう地だったのかもしれないし、あるいは、この地を拠点にしようと考えた者の、孤独な見張り小屋だったのかもしれない。この本を読んだら、あの時に見つけた遺跡に行って、その遺跡がたどった歴史に思いをめぐたらして見たくなった。
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